実験11
マクロン氏は「戦い」よりも「安心」と「求心」を表す同系色を選んで国民の心を掴みました。2022年4月フランス大統領選で極右候補との接戦を制したマクロン氏のネクタイ色分析レポート。
お知らせ 2022.5.2
これまで感性を読み取る仕組みを「感性デザイン言語」と表記してきましたが、よりわかりやすく理解していただけるよう「視覚スケール/Visual Scale(ヴィジュアル スケール)」と改名しました。小麦粉の量を測るスケールや紙の大きさを測る定規と同じように利用してください。
実験1——ジャンプ率でつくる好感デザイン
第3のビールの場合
どちらのデザインが好き?
考えずパッと見た印象で選んでください
こたえ
全員が左図Aのデザインを選ぶはずです。当所で実施した過去のアンケートでも毎回同じ結果になっています。元気で開放的なデザインに回答者の脳が共感した結果なのです。
ジャンプ率で比べる
今度は、下図のジャンプ率のスケールに合わせて2図を比べてみます。するとAとBの違いが見えてきます。ジャンプ率が高いほど力強く、低くなるほど大人しくなります。お手頃な(本格派じゃない)第3のビールは8前後の力強さが程よいということがわかります。前問ではパッと見の印象で答えた結果ですが、ジャンプ率という視覚言語に翻訳してみると好印象の根拠が客観的に示されるのです。
用語解説 ジャンプ率とは
約60種ある視覚言語のスケールのひとつで1979年に公開しました。そこに使われている文字や画像の大小差のことで、高くすると力強く元気になり、低くすると上品で静かになります。ジャンプ率はデザイン言語の中でもとても理解しやすいスケールです。正しく用いることは良いデザインへの確実な第1歩です。
実験2——色量率でつくる好感デザイン
第3のビールの場合
どちらのデザインが好き?
考えずパッと見た印象が大切です
こたえ
圧倒的多数の人がAを選び、Bは少数派です。Bのデザインも力強いのに多くの人はBを避けます。その理由は色量の違いから来ています。
色量率で比べる
色量率のスケールに当ててふたつの違いを比べてみると、Aを選んだ理由がわかります。Aは色量率が8でBは3。色量率は大きいほど開放的で積極的、小さいほど閉鎖的で消極的になります。ビールを皆で楽しく飲むときの開放的な気分を表すには色量率8前後がふさわしく、4以下では開放感は出てきません。
用語解説 色量率とは
視覚言語のひとつで2006年に公開した色の強弱を測るスケール。高くすると元気で頼りになるイメージになり、下げると優しく都会的なイメージになります。色量率を間違えると、ふさわしいイメージが表れないだけでなく不愉快な気持ちにさせます。色量率は彩度とトーンと色面量の組み合わせで決まり、ジャンプ率より複雑なスケールといえます。
色量率のスケールは、10段階で表します。音量を測る単位のデシベルには上限はありませんが、色量は相対評価で最大を10にしてあります。色の強弱を表す主な要素は①彩度(トーン)、②色相、③明度対比、④色相型、⑤色面までの距離です。鮮やかな純色だけで組み合わせると色量率は8になります。色相型を全相型にすると1段階高く色量率は9になり、暗色を加えるとさらに1段階高くなり、上限の10になります。
色量は音量と同じように距離とシンクロします。小さなパッケージの鮮やかな色は魅力的ですが、そのまま建物の壁面に塗ると迫力がありすぎて不快になります。建物の色量率を測定するときの基準視角は、距離60cmに対し色面の高さ30cmほどが判定しやすいようです。
実験3——個性と共感の違い
従来好みは個人で異なるので好き嫌いには絶対的な基準はないとされてきました。しかし、実験1、2の結果を見ると好き嫌いの個人差は思ったより少なく、むしろ共通(共感)している部分が多いことがわかります。実験3では個人の好き嫌いと共感の違いを見てみます。
下図の子猫の中で、好きな子猫はどこ?
こたえ
全員がバラバラになります。1、2の実験では全員の答えが一致したのに今回は全く異なります。これは「個性」で選んだ結果だからです。
では質問を変えて、「優しそうな子猫はどの子?」としてみましょう。すると誰もが最も色量の低いAを選びます。この答えの違いが個性と共感(共通の感情)の違いです。
ヒトには他者と異なる個性(≒好き嫌い)がありますが、「優しさ」を問われると社会的な感性が働いて共感(=共通の感情)で選ぶのでこたえは一致するのです。
共感が社会を繋ぎ、個性は一人一人の幸せを決める
感性の中には個性と共感が矛盾しながら共存しています。社会性を求められるシーンでは全員の感情が一致し、趣味性の強いテーマでは個人別の好みが強く表れるようになっています。
好き嫌い(感性)┬──共感=社会性が強い─社会の多くの人が共通した感情でつながる
└──個性=社会性が少ない─他者とは全く異なる感情で幸せを感じる
ということが言えます。
個性と共感とは全く別な感性
大きな群れ(社会)の中にいるときは、共感で社会全体が繋がります。一方、個人的空間にいるときには個性的感情で一人一人の幸せを感じます。両方のバランスをとって社会が安定しているのです。
実験4——良いデザインがベストセラーを決める
次に良いデザインの効果を確かめてみましょう。
下のデザインのどれが好き?
下のデザインのどちらが好き?
こたえ
ほとんどの人がAとaを選びます。当社の実験でも必ずAが好感される結果です。そしてAとaはベストセラーになっています。Aのミネラルウォーターは家庭的な爽やかさが好感されているからです。aは軽自動車らしい堅実な穏やかさが好感された結果です。
ここで注目したいのが[良いデザイン=好感されるデザイン=ベストセラー]ということです。
なぜ良いデザインはベストセラーになる?——人の行動の大半は感性が決める
商品の売り上げを決めるのは、1品質 2価格 3入手しやすさですが、実際には3条件を満たしてもベストセラーにはなりません。この3条件は知性脳の合理的評価で、感性脳が反応しないと購入行動は起きません。両脳が一致して好感した時にベストセラーになるのです。このことから良いデザインは、実際の行動を伴う、ということが言えます。
ベストセラー(行動)┬──感性脳がデザインに好感した時
└──知性脳他知性脳が商品を3条件で評価した時
デザインの効果は客観的か
視覚言語を発表する前に当実験室が最も大切にしたのが下記の客観3条件です。実証するためには20年以上を要しました。
1 評価の基準
視覚言語スケールの客観性。その通り組み立てると合格A(好感デザイン)になる。
2 市場での証明
合格Aを市場に展開するとベストセラーになる。
・女子校T学園の校舎は建て替え後、入学者が例年の2倍に。
・選挙ポスターの合格Aは90%の候補者が当選。
・実売した製品は90%以上がロングセラーになる。
3 再現性
初心者が基準表に従ってホームページのデザインを作ると、75%の人が合格Aをつくりました。
学生3グループ、社会人1グループ。
合格Aデザインは5%しかない——デザインの現状
視覚言語のスケールに合わせて採点するとWebデザインやパッケージデザインの合格Aは全体の5%足らず、選挙ポスターは10%ほど、全国紙新聞の全面広告は20%ほどになっています。
この原因はデザインを事前に評価する方法はなく、感性脳の反応を生かさなかったためだと考えます。実験1、2で見た通り脳の反応に合わせると合格Aデザインがつくれます。
感性は見えない測れない
実験5——感性脳と知性脳の反応
下枠線の中の画像部分を手のひらで隠して文字だけを見てみます。すると、一気に寂しくなり、手を外すとホッとして幸せな気持ちになります。
画像情報は感性脳(扁桃体)に届いてこのような深く豊かな感性が生まれる一方、文字情報は知性脳に届き感性は反応しないので寂しい気分になるのです。私たちの日常は感性が心を豊かにしていますが、感性の内容は自分自身でも言葉で表すことは出来ず、脳科学的にも扁桃体は測れないとされています。このため感性は本能とも言われ、謎のままでした。
生き物は視覚から始まった——ヒトは視覚で安心を得ている
3億年前、三葉虫が視力を得て生き物が誕生しました。見た記憶を脳に蓄積して獲物を見つけ、危険を感じると瞬時に行動しました。視覚が脳を動かし、瞬間に行動させる仕組みができヒトに続いています。この結果、ヒトはヘビを怖がり、火に神秘を感じています。生き物の誕生の最初から視覚が行動を決めていました。
脳は視覚専属の臓器でした。その後、聴覚や味覚、嗅覚が加わり、後に合理的判断専用の脳である新皮質が加わりました。生き物にとって視覚は初めから特別な存在だったと言えます。
人は本能で行動している
サルもヒトも、草むらからヘビが現れると退き、ネコは後方に置かれたキュウリに気付いて飛び上がります。これは太古の哺乳類の恐怖の記憶から生まれ本能とも言われます。また、ヒトは人物の写真を見ただけで深く惹かれ、言葉も交わしていないのに好き嫌いを決めます。当所の実験で選挙ポスターをデザインするとき、同じ人物の表情を変えるだけで、一方は90%の当選が見込め、誤った表情にすると30%に下がるという結果が出ています。
アメリカの神経生理学者ベンジャミン・リベット※1の実験によればヒトが行動を決めるのは無意識で、意識はその反応に気づいて少し遅れて反応しているが、自ら反応していると認識しているといいます。また、社会心理学者ジョナサン・ハイト※2によれば、ヒトの行動の99%は直感が決め、残りの1%が理性で決めるそうです。つまり視覚表現が人の行動を決めていると言えるのです。
感性は不合理や矛盾が好き
もう一つ感性を理解できない壁があります。私たちは知性脳を中心にして生きていると意識しています。その知性脳は合理的に考え矛盾を嫌うのです。ところが感性は不合理で矛盾した行動が好きなのです。人はアフリカ大陸で誕生し、様々な危険を乗り越えて現在の社会を築いてきました。その中で矛盾や不合理な冒険の大切さを実感し、冒険を避けると社会の発展が止まり、個性から生まれる矛盾を受け入れないと個々の幸せが抑制されて集団が小さくなり、集団全体の安全も消えることを記憶しているようです。
※2 ジョナサン・ハイト:米国バージニア大学の社会心理学、道徳心理学、ポジティブ心理学者。著書「しあわせ仮説/古代の知恵と現代科学の知恵」「社会はなぜ左と右にわかれるのか——対立を超えるための道徳心理学」
※1 ベンジャミン・リベット:米国カリフォルニア大学の生理学者、医師。著書「マインド・タイム 脳と意識の時間」。1980年代の実験以来、人間に自由意志はあるのかという論争が続いている。
視覚言語で感性を測定する
良いデザイン(感性に訴えるデザイン)の基準は不明でそれを作る方法論は存在しませんでした。
しかし、造形要素ごとのスケールを当てると数値で感性を読み取れるということが、約50年の視覚伝達の研究によりわかってきました。デザインの良し悪しは測れるようになったのです。このスケールは約60種類あり、それらを組み合わせることで感性をほぼ読み取ることができます。このスケールの体系を視覚言語と命名しました。
ヒトの感性は大脳辺縁系の一部である扁桃体から生まれ、これまでは本能とか意識下と言われていました。これを視覚(造形要素)を通して客観的に翻訳しようという技術です。おそらく世界でも最先端のメソッドになると思われます。
脳を解析する科学分野は進歩していますが、造形要素を的確に整理して序列をつくるところ(造形要素のスケール化)ができないために、相互(感性と造形)の関係がはっきり見えてこなかったと思われます。
実験の応援を
この視覚言語は従来の常識と異なるためか、当所ひとりの実験のようだ。このため、少しずつしか進みません。実験の場を提供してくださる方、実験に参加してくださる方、デザイン外の知識を助言してくださる専門家の方を探してこののページを開設しました。